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「私ですか?」
久遠がこの部屋にいる確信があるため、詞子は男にそう聞く。
何故ならば、男が詞子の名を出した理由があると思ったのだ。
久遠はその声を聞くと素早く立ち上がり、詞子の腕を無理矢理引っ張って強引に抱き締めた。
その行動は無理矢理で強引だったため、詞子は思わず届けようとしていた背広を落としてしまう。
この部屋にやはり久遠はおり、間違っていなかったことに詞子は内心喜ぶ。
不意に気付く。
何故喜ぶか?と。
「く、久遠様っ!?どうして……」
その背広を拾うにも久遠の抱き締める腕の力強さは変わらず、詞子はどうするべきか思案した。
しかし詞子の質問に答えず、久遠はいまだに襖に頭を下げている男を見た。
「お前は誰だ。」
変なことを言う久遠に首を傾げつつ、詞子は男をよく見てみることにした。
そして、気付いた。
反射的に脳が恐怖した。
詞子はこの男の顔、雰囲気にも身に覚えがあった。
そして、この男に二度と会いたくないという気持ちを持っていたのだ。
何故ならば――。
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