婚約

14/35
前へ
/712ページ
次へ
「私ですか?」 久遠がこの部屋にいる確信があるため、詞子は男にそう聞く。 何故ならば、男が詞子の名を出した理由があると思ったのだ。 久遠はその声を聞くと素早く立ち上がり、詞子の腕を無理矢理引っ張って強引に抱き締めた。 その行動は無理矢理で強引だったため、詞子は思わず届けようとしていた背広を落としてしまう。 この部屋にやはり久遠はおり、間違っていなかったことに詞子は内心喜ぶ。 不意に気付く。 何故喜ぶか?と。 「く、久遠様っ!?どうして……」 その背広を拾うにも久遠の抱き締める腕の力強さは変わらず、詞子はどうするべきか思案した。 しかし詞子の質問に答えず、久遠はいまだに襖に頭を下げている男を見た。 「お前は誰だ。」 変なことを言う久遠に首を傾げつつ、詞子は男をよく見てみることにした。 そして、気付いた。 反射的に脳が恐怖した。 詞子はこの男の顔、雰囲気にも身に覚えがあった。 そして、この男に二度と会いたくないという気持ちを持っていたのだ。 何故ならば――。
/712ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2619人が本棚に入れています
本棚に追加