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詞子は久遠のワイシャツをキツく握り締める。
久遠はそれに気付き、ギュッと詞子の手を握ってやる。
詞子が恐怖する理由がわかった久遠は、詞子の頬に軽い口付けを落とす。
久遠の胸に顔を埋めていた詞子は頬に温かいものが触れた感触を感じ、自分でもようやく強張った体が弛緩するのがよくわかった。
「組の人間じゃないな……詞子の父親か。」
父親と聞き、詞子は久遠の手を自ら強く握る。
「父と呼ばれるのは懐かしいな。」
男は薄笑いを浮かべ、詞子を舐めるように見つめる。
詞子は背筋に悪寒が走り、見られていることを男に背を向けながらも感じた。
「黙れ。それよりもまずは不法侵入についてだ。どうやって中に入った?」
詞子に向けられる下賤な視線に気付き、久遠は内心舌打ちする。
腹立たしい。
「門からだよ。なにせ不用心にも開いていたからな。」
「開いていたとはいえ、侵入するか。ここをどこだと考えている?」
「ははっ、さぁな?開いていたから入っただけだ。なにも問題ないだろ。ここがどこだろうが、愛しい詞子がいる場所に危険はない。違うか?」
父親は嘲るように笑う。
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