第 I 章

11/46
前へ
/148ページ
次へ
太陽は、頭上にあり煌々と辺りを照らしている。 この辺りは住宅街みたいだ。 ちょうど今は昼時らしく、あちこちの家から美味しそうな匂いが漂ってきている。 俺、物理的な肉体はないけど、どうやらアーサーを通して五感を感じる事は出来るみたいだ。 なんか、それはそれで辛いような気がしないでもない・・・ アーサーが家に入る。 どうやら、自宅に着いたようだ。 中には誰もいない。 両親は単なる外出か、それとも仕事中か。 なんにせよ、アーサーに話しかけるには丁度いい。 アーサーは一旦、台所で何かの肉が入っているパイと平たいパンを2つ掴むと、パンを口にしながら居間へ落ち着く。 コイツ、行儀はあまりよろしくないな。 アーサーが椅子に座ったところで、俺はなるべく驚かせないように穏やかな声で話しかける。 (アーサー、俺の声が聞こえるか?) 一つ目のパンを食べ終え、パイにかぶりついた所で、動きが止まる。 予想どおりの動きだ。 (信じられないだろうが、俺は、異世界からこちらの世界に召喚され、成り行きでお前に宿る事になってしまった者だ) 自分でも、何を言っているんだろう?って思うが、他に言い様がない。 アーサーはといえば、頭を抱え込んで『悪霊に取り付かれてしまった!』なんて混乱している。 無理もない。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加