-島原と伊代-

2/19
前へ
/466ページ
次へ
光もない暗闇に丸くて大きな雪が降り注いでいる。 顔にあたる風はじりじりと痛い。 「早く帰ろう…」 末吉を家まで送っていた伊代は、冬の寒さに凍えていた。 「わっ!」 提灯を持っていたが、急に目の前に人が現れたものだからぶつかってしまった。 「すみません」 「こちらこそ。お嬢はんはお怪我してはりませんか?」 前には綺麗な着物を着た女性が立っていた。 化粧もしっかりしていて、別嬪だった。 「大丈夫です」 ぐうぅ~ 腹の虫が大きな音で鳴いた。 「恥ずかしい…」 「私茶屋やってるんですが、良かったらよって来ません?」 「優しい方どす。お言葉に甘えて…」 案内しようとしたが女の人はのそのそしていて遅い。 足を見てみると、高い下駄を履いていた。 「歩きにくいんよ!この馬鹿下駄!!」 雪がうっすら積もっているのに、裸足で歩き始めた。
/466ページ

最初のコメントを投稿しよう!

935人が本棚に入れています
本棚に追加