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光もない暗闇に丸くて大きな雪が降り注いでいる。
顔にあたる風はじりじりと痛い。
「早く帰ろう…」
末吉を家まで送っていた伊代は、冬の寒さに凍えていた。
「わっ!」
提灯を持っていたが、急に目の前に人が現れたものだからぶつかってしまった。
「すみません」
「こちらこそ。お嬢はんはお怪我してはりませんか?」
前には綺麗な着物を着た女性が立っていた。
化粧もしっかりしていて、別嬪だった。
「大丈夫です」
ぐうぅ~
腹の虫が大きな音で鳴いた。
「恥ずかしい…」
「私茶屋やってるんですが、良かったらよって来ません?」
「優しい方どす。お言葉に甘えて…」
案内しようとしたが女の人はのそのそしていて遅い。
足を見てみると、高い下駄を履いていた。
「歩きにくいんよ!この馬鹿下駄!!」
雪がうっすら積もっているのに、裸足で歩き始めた。
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