-夜桜-

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春が訪れた京は、辺りが暗くなっても暖かい風が吹いていた。 物騒な世の中なのに、優しく道を歩く者の頬を撫でた。 「伊代、何処行くの?」 皿を洗っている藤が、奥から顔を出して言った。 伊代は四条通で茶屋を営んでいた両親を去年の末に亡くし、親戚の藤と共に茶屋を潰すまいと、一生懸命働いていた。 「壬生寺に!商売繁盛願って、お参りしてくる!」 「気をつけて」 伊代と藤は同い年で、こどもの頃は二人とも江戸で暮らしていた。 「壬生狼だ!」 ざわざわと回りの人々が騒ぎ出し、道の脇に寄ったり近くの店に隠れて、堂々と歩く新撰組を不審な目で見つめた。 (大丈夫…) そう自分に言い聞かせ道の脇に寄り、新撰組の顔を見ぬように道を進んだ。
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