935人が本棚に入れています
本棚に追加
春が訪れた京は、辺りが暗くなっても暖かい風が吹いていた。
物騒な世の中なのに、優しく道を歩く者の頬を撫でた。
「伊代、何処行くの?」
皿を洗っている藤が、奥から顔を出して言った。
伊代は四条通で茶屋を営んでいた両親を去年の末に亡くし、親戚の藤と共に茶屋を潰すまいと、一生懸命働いていた。
「壬生寺に!商売繁盛願って、お参りしてくる!」
「気をつけて」
伊代と藤は同い年で、こどもの頃は二人とも江戸で暮らしていた。
「壬生狼だ!」
ざわざわと回りの人々が騒ぎ出し、道の脇に寄ったり近くの店に隠れて、堂々と歩く新撰組を不審な目で見つめた。
(大丈夫…)
そう自分に言い聞かせ道の脇に寄り、新撰組の顔を見ぬように道を進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!