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謝りたい事が沢山ありすぎて、何に対して謝っているのかわからなくなる。
ただ目に浮かぶのは、航一さんの後ろ姿だ。
「…わらしの言う『面白い血』って…このことだったんだね」
わらしが杯を傾けた気配がした。
それを肯定と受け取るも、次の言葉が出てこない。
沈黙が訪れても、頭の中は航一さんでいっぱいだった。
「つまらんことで悩むな」
「……」
わらしの言葉にのろのろと顔を上げる。
言い返す気力も湧いてこない私に、わらしは厳しいとも取れる口調で続けた。
「そんなものに捕らわれて何になる」
「……何に、って…」
「裕福な立場にあるからこそ悩むのだ。諦めて受け入れろ。貴様が今ここに居る事に変わりは無い」
「………」
それだけ言うとわらしは口を閉ざし、菊太夫に杯を向けた。
…受け入れる。
航一さんも同じ事を言っていた。
多分、受け入れなきゃ先へ進めない。
「………」
再び頭を落とし、膝の上の掌を眺めた。
温もりは、もう無い。
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