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  「……美緒…?……美緒」 名前を呼んでも反応がない。 ついさっき藤さんに手渡された切り子グラスに目をやって、私も以前こうやって眠りに落ちたのだろうと確信する。 その時、背後の襖が滑る音が聞こえてビクリと肩が跳ねた。 「…美緒、寝た?」 「あ…なっちゃん…」 事件の後だから神経が過敏になっているんだろうか。 驚きでバクバクと激しく打っていた心臓は夏生の姿を見れば若干落ち着く。 夏生は様子を窺いながら座敷に入り、私の隣に座って美緒の顔を覗き込んだ。 「…全部飲んだのか。ここまで寝込めば大丈夫だ」 「…うん」 「…美緒も髪が伸びたな」 夏生は懐かしそうに呟くと美緒の髪を一度だけ撫でた。 「美緒はここでもうしばらく寝かせておくからお前も一緒に寝たら?布団用意させるから」 「ううん、私は大丈夫」 「疲れてるだろ。寝ろ」 「本当に大丈夫。それより、やることいっぱいあるんでしょ?私も…」 「別に無い。下への報告は終わったし、廓ももう通常通り動いてる」 「……」 ここまで、夏生の顔は一度も見れなかった。 多分、夏生も私の方を見てない。 ただ美緒の穏やかな寝顔を見ていた。  
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