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「…心配しなくても、『鳳来』はあいつらを追うことも咎めることもしない」
息苦しい沈黙を先に破ったのは夏生だった。
その言葉に思わず顔を上げて夏生を見る。
「……ほんと…?」
「ああ。そんなに暇じゃないし。出て行ってくれさえすれば何でも良い」
「……」
良かった…。
心底ホッとしてゆっくり息を吐き出し、再び水を口に含むと何故か夏生が目を逸らす。
――夏生のこの仕草は、昔から…いや、特にここ最近何度も見た気がする。
そうだ、小さい頃は何か後ろめたさややましい気持ちがあるときに、よく、こうして──
「……」
ただ、脳がまだ興奮状態にあるのか上手く思考を操れずそれを思い出せない。
もやがかったような感覚を振り払うために頭を振った。
だけどもやは徐々に濃さを増し、強制的に思考は遮断される。
これもみんな極度の緊張を味わったせいかと思っていた。
…これは、眠気だ。
しかも生理的なものなんかじゃない。
ペットボトルと夏生を交互に見るけど、既に視線の動きも鈍くなっていることに気付く。
目を動かしただけでさらに眠気が身体中に回ってくる。
……やられた。
どうやったのかはわからないけど、私はまたしても薬を盛られたらしい。
「……なっちゃ…」
ふらりと上体が傾きそうになり、慌てて畳に手をついた。
膝の上の美緒がゆっくりと滑り落ちる。
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