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肌寒くて、布団が気持ち良い。
い草の香りに食器の優しい音。
…ああ、ここは。
直純さんの家だ。
あの後、夏生が私をここまで運んでくれたんだろう。
それは多分、二回目。
そっと目を開けると、朝の日差しを受けて柔らかな光を放つ障子が私を見下ろしていた。
半身を起こすと、自分が浴衣を着ていることに気付く。
誰が着替えさせてくれたんだろう…。
そう考えかけたけど、その疑問はすぐ消えてなくなった。
それが誰なのかなんて、今の私にはどうでもいい事に思えた。
「………」
胸に手を当てる。
とく、とく、と静かな鼓動が掌に伝わった。
…不思議なくらい穏やかな気分でいる自分に驚く。
夢が醒めれば、もっと落ち込むかと思ってた。
立ち上がり、障子戸を開けるとキッチンにいた直純さんが振り返った。
その姿を見ただけで無事戻ってこられた実感が湧いてくる。
「……直純さん」
「…起きたか」
直純さんは私に近付くと腰を屈め、顔を覗き込んできた。
「…腫れてはおらんな。すぐ治りそうだ」
あ…。唇。
そういえば昨日、噛んじゃったんだ。
「他に怪我は無いか」
「…ありません」
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