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頭頂部からじわじわと伝わる直純さんの体温が気持ち良くて目を閉じる。
ああ、抱きついてしまいたい。
もっと、と身体が本能的に熱を求め、直純さんに手を伸ばしかけた時、直純さんが僅かに口を開いた気配がした。
「…昨夜……」
「はい?」
「怒りで己の身体が発火するかと思った」
「……」
穏やかな空気は一変。
上げかけた腕は不自然な位置で止まったまま身体が硬直する。
見下ろされる瞳は変わらず真剣で。
私は解剖を待つ蛙のように目を見開いて動けずにいた。
…当たり前だけど、私が怒らせてしまったのは夏生だけではないと思い出す。
直純さんにも、沢山嘘を付いた。
それで昨日のザマだ。
私の信用は見事に地に落ちたかもしれない。
いや、消滅したかも。
そう思った瞬間にお母さんの背中が頭にチラつき、心臓が大きく打ち始めた。
「……ご、めんなさい」
「…?どうした」
「………」
言葉を続けられずに俯くと、私の顔を追ってきた直純さんの視線が行き場を失って宙ぶらりんになった私の腕に行き着いた。
「………」
居たたまれない気持ちで慌ててその手を下ろそうとしたけど、突然伸びてきた直純さんの手によって阻止される。
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