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「……!」
直純さんは私の両手首を掴むと自分の方に引き寄せた。
直純さんの胸に顔がぶつかり、距離がゼロになる。
「あ、あの…?」
そのまま自分の腰に私の手を回させ、しがみつくような態勢を作らせると直純さんも私を包むように背中に手を回してきた。
「……」
普通に抱き合っているような状況に胸が騒ぐけど、直純さんの心臓の音が直接脳に伝わると、それに合わせるように不安定に打っていた私の心臓が落ち着いてくる。
暖かい。
気持ちいい。
「…緊急時にすらここから出られんというのは、悔しいものだな……」
「…え?」
直純さんの顔を見上げようとしたけど、頭を胸に押し付けられてそれが出来ない。
「娘の危機に駆けつけてやれん自分の不便な身体がどれだけ憎らしかったことか」
「……」
「…情けない。悪かった」
「……そんな、」
「……」
直純さんの声は微かに震えていた。
…今は顔を見られたくないのかもしれない。
じわ、と涙が溜まりそうになるのを必死で堪えた。
…航一さんと一緒に行っていたら、この温もりを手放すことになっていたんだ。
そんな簡単なことにも気付けないほど精神的に切迫していたんだと思う。
私には直純さんがいない生活なんてもう無理だ。
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