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「…なんでもないです」
モヤモヤした気持ちを悟られまいとパンケーキを口に運ぶ。
直純さんは首を傾げながら続けてくれた。
「ここからは聞いた話だが、田舎嫌いの美那子さんは高校生の頃から男を頼って家に寄りつかなくなり、卒業を機にそのまま音信不通になったらしい」
「…村に馴染めなかったって聞きました…」
「そうだな。だがそうさせたのは育てた人間や環境の問題ではなく、本人の気質だろう。加江さんも頭を悩ませていた」
「……」
――生まれながらにして毒婦
そう言い切った航一さんを思い出す。
おばあちゃんとお母さん。
私にとって幸せな思い出がいっぱい詰まったあの家で、二人はどんな生活を送っていたんだろう。
「…やめておくか?美那子さんの話は波瑠にとって気分の良い話ではないはずだ」
「え?…あ、大丈夫です。ちゃんと、聞きたいです」
物思いに耽っていたら心配をかけさせてしまった。
直純さんは一瞬だけ話の続きを躊躇したけど、私の様子を窺いながら話を進めてくれる。
「…加江さんに手紙が届いたのは、それから僅か一年後…美那子さんが十九歳の時か。手紙には誰かの子供を産んだとだけ書かれていたらしい」
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