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嫉妬心剥き出しの台詞が清々しいはずの朝のリビングに響く。
「…い、今のナシで」
恥ずかしいというより呆然とした気持ちで呟くと、直純さんが目を瞬いてから何かに気付いたように「ああ」と口を開いた。
「…誤解しているようだが。私と美那子さんの間には何もない」
「そ、そうなんですか」
直純さんの片思いか…。
こんな素敵な人が近くにいたのに、お母さんって見る目がないんだな。
「皆が惚れていたなどという私の言い方が悪かったか。私が廓に入る頃、美那子さんはまだ小学生だ」
「え」
「ついでに言うと、同じ時代を生きたとしても好みではない。…ああ、だが」
直純さんは紅茶を飲もうとしていた手を下ろし、私をじっと見つめる。
「これから波瑠を産む女だと知っていれば話は別だったのかもしれん」
「………」
自分の顔に熱が溜まっていくのを感じる。
直純さんたら…!
もう…っ!
気恥ずかしさが混じった穏やかな空気に包まれながら二人で笑い合う。
その時、永遠とも思える幸せな時間に、第三者の声が突然空気を裂くように割って入ってきた。
「……そのこっぱずかしい三流ドラマみたいなの、そろそろ終わらせてくれると有り難いんだけど」
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