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すっかり勇気付けられた私は、直純さんの見送りを受けながら夏生と裏庭を歩く。
三歩先を歩く背中をそっと見上げ、昨日の月明かりに照らされた夏生の険しい顔を思い出していた。
…まだお礼も言ってなかったな。
何て切り出そうかと考えあぐねいていると夏生が振り返って私に視線を寄越した。
「…直純さん、お前にいつもあんな感じなの?」
「あんな感じって?」
「ゲロ甘っつーかなんつーか」
「ゲロ…うん、いつも優しいよ」
何故か夏生がげんなりしたように顔をしかめて前に向き直り、そのまま無言で歩き出す。
陽の光を浴びているせいか、夏生の横顔はいつもより幾分か幼く見えた。
「…美緒は?」
「昨日のうちに帰った」
「そっか…。起きたら全部夢だと思うかな…」
「さあな」
お礼を言うタイミングが掴めないまま空を仰げば、雲一つ無い秋の空が澄み渡りトンボが高い位置を飛んでいた。
真っ青な空の向こうには果てしない宇宙が広がっているのだという。
空はあまりにも綺麗で、昨日の出来事がまるで夢のように思えた。
…航一さんも、同じように空を見上げてくれているといいな。
例えもう会えなくとも、同じ空の下にいると思える。
…だから、私はもう大丈夫だ。
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