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ドカン、と信じられないくらいの荒々しい音がリビングに響いた。
信じられない、と思ったのは、その大きな音を人間の拳が作り出したということで――
私は目を見開いて目の前の夏生を見つめていた。
夏生の右の拳は私の斜め上の壁を容赦なく打ち、その振動が後頭部から脳にビリビリと伝わる。
夏生は三十センチの距離から怒りを露わに私を睨みつけ、私は突然の事態に瞬きも出来ずにいた。
…これがリアル壁ドン。
いや、本気で殴りたかったのかもしれない。
何故こうなった。
直純さんの家を爽やかな気分で出て、夏生に連れられて広間へ入れば、おじさんをはじめ従業員の皆が勢揃いしていた。
夏生が私の為に集めてくれたらしい。
迷惑をかけてしまった事を謝り、無事を喜び合いながら皆に囲まれていた時は夏生は離れた場所から私を見ていた。
それから当たり前のように廓へ向かうから、冬馬くんに会わせてくれるのかと思っていた。
だって、行脚だもんね。
朝の薄暗い廓は事件の時と雰囲気も違い、思ったよりも怖いと思わなかった。
そして夏生は眠っている冬馬くんを起こすことなく、無人のリビングへと私を連れてきた。
…からの、コレだ。
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