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「……」
「………」
夏生の怒りを孕んだ瞳が二人の間の空気まで凍らせて、私はうまく呼吸が出来ずに喉を鳴らした。
…今さっきまで穏やかな雰囲気だったと思うのは、私の厚かましい勘違いなんだろうか。
夏生はやっぱり怒っている。
それも、とてつもなく。
これだけの激しい怒りをぶつけられるのは初めてで、どうしていいのかわからないまま「ごめんなさい」と呟くと夏生の表情に怒りが増した。
「………あの、」
「何で俺が怒ってるのかわかってんの」
「………」
心当たりがありすぎて視線が泳ぐ。
「…く、廓に他人を入れさせた」
「……」
「あと、たくさん嘘ついたりとか……美緒や皆を巻き込んで危険な目に…」
「……」
「その……」
私がごにょごにょと言っている間、夏生は私を見下ろすだけで何も言わない。
やっぱり昨日の「どこにもやらない」発言は夢だったに違いない。
実は夢の中の夏生の声に甘さを感じていただなんて、私の頭の中ではとんだおめでたいお花畑が咲き誇っているらしい。
ああ、その視線で胃が痛い。
もういっそのこと怒鳴りつけて欲しい。
いたぶり続けるより、ひと思いにヤっちゃって欲しい。
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