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「……」
夏生の表情に動揺が滲み出る。
自分で言ったくせに、何でそんな顔をするんだろう。
眉間の皺を見つめながら夏生の手を取って目の前に持ってくる。
夏生の節ばった大きな手にはやっぱりコブの所に傷が付いていた。
皮がむけて痛そう。
その傷から出てくる液体が夏生の内なる叫びのように思えて、抱き締めてあげたくなる。
「これからも一緒に頑張ろうね」
変わりにその手を両手で包んで見上げると、しばらく視線を交わした後に夏生が笑った。
「……お前は、ここの花車だからな」
「そうだよ。なっちゃんの上司だもんね」
「…言ってろバカ」
バカ、と言いながらも、その笑顔は堪らなく優しい。
それを見て急に胸が高鳴った。
「………」
…あ、あれ?
おかしいな、高鳴りが治まらない。
夏生の手を離して目を逸らすと少しはそれが落ち着いた気がした。
「て、手当てしなきゃ」
「いや、いい。コーヒー飲む?」
「うん…」
夏生が私に背中を向けたことを良いことに、その背中をじっくりと見る。
いつまでも存在をアピールしてくる心臓が何だか心地悪かった。
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