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「お前、バカか!!」
この「バカ」はさっきの「バカ」とは違う。
心からの「バカ」なんだろう。
「兄貴だから何もされずに済んだとか思うなよ!あいつはそんなの関係無く手を出せるような奴だぞ!」
「わ、わかってるよ」
あの時の航一さんは何の躊躇も容赦もなかった。
今考えても、わらしの力が無ければ私も美緒も無事に帰れる可能性は少なかったと思う。
だから夏生の言いたいことは良くわかるから、下手に言い返すことはしない。
「貧相だからって気を抜くなよな」
「……」
…言い返……すまい。
自分の眉間に皺が寄っていくのを感じながら、心の中で「貧相ではなく控え目なのだ」と呟いた。
「で?あとは。他に何かあんのか」
一気に機嫌の悪くなった夏生を横目に見ながら、また壁を殴られたら困るとヒヤヒヤしていた。
「えーと、あとは銃を…」
「銃を?」
「………」
「…波瑠?」
銃、の単語で目の前に鮮明に蘇ってくる光景に、ピタリと声が止まる。
客室の天井。
シーツの匂いと肌触り。
腰に掛かる体重。
見下ろす涼しい笑顔。
照明に煌めく漆黒の艶と――
私に向けられる、小さな真っ暗闇。
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