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「……あ、悪い」
「…いや、うん、大丈夫…全然……」
夏生が私から身体を離し、横に座り直す。
ソファーの軋む音が二人の気まずさを煽った。
まだ痛む肺が、更に締め付けるように狭くなった気がする。
「…あの、直純さんが、何?」
「…ああ、あの人も過呼吸持ってるから」
「……それ、多分私も見たことある」
忘れもしない、直純さんに二回目に会った時。
おばあちゃんのアルバムを見せた日だ。
真っ青な顔で苦しそうにシャツの胸元を握り締め、必死で堪えていた。
直純さんはこんな辛さと闘っていたのかと思うと息が詰まる。
「…紙を捲る音が駄目なんでしょ…?」
「……良く知ってんな」
夏生が驚いたように目を見開き、小さく呟いてからマグカップに視線を落とした。
「過呼吸っつーか…あの人の場合は過換気症候群って言う精神的なものらしいんだけど…。発作の引き金は本とか紙とか…この場所もだろうな。自分が御贄だった頃の事を彷彿とさせるものが駄目なんだと思う」
「…そう」
「…冬馬だって、役目を終えたらそうなるかもしれない」
「……」
…三十年以上強いられる廓での生活は、人ひとりくらい簡単に壊してしまえるんだろう。
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