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「……」
それは無い。
それだけは無いと言える確証を、封印していたお母さんの記憶と共に思い出したのだ。
雨粒が跳ね上がる度に香る土の匂いと、私を拒絶する、夏生の冷たい瞳を。
それでも航一さんの色気を孕んだ柔らかな声が、私の凝り固まった思考を包んでいく。
『後でゆっくり考えてみると良いよ。見えないものが見えてくるから』
「…なっちゃん」
床に座ったまま声を掛けると、夏生の瞼が怠慢な動きで開かれた。
眠そうではあるけど、しっかり私を見据えている。
「……なに」
「なっちゃん、私のこと好きなの…?」
お互い瞬きはしなかった。
目を見開きもしなかった。
ただ無言で見つめ合い
「好きだよ」
確かに夏生がそう言った。
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