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「…………な、なにも言われて…ない?」
「疑問系なんだ」
「……」
吹き出す冬馬くんに確信する。
冬馬くんは知っている。
でなきゃ、わざわざ夏生に黙って夏生のいない時間になんか呼び出さない。
「もしかして、夏生の気持ちを聞いた?」
「……!」
ボン、と顔から火が出た気がした。
「ああ、やっぱり」
冬馬くんが長い前髪の向こうの目を細めて愛おしげに私を見る。
私は地面に落ちた金魚のように、ただ口をパクパクとさせるしかなかった。
「夏生の雰囲気が変わってたから。もしかしたら、ついに言ったのかなと思っていたんだ」
夏生が言った訳じゃないんだ。
…でも雰囲気って。
その洞察力すら今は怖い。
だって、私の考えていることも全部知られているかもしれない。
そう思ったら私のメッキはばらばらと剥げ、諦めに似た覚悟だけが残った。
おでこを膝に乗せ、赤いであろう顔を今更ながら隠す。
「……なっちゃんに好きって言われた…」
「うん」
「………どう思う?」
「どう、って?」
「……冗談だと思う?」
「波瑠」
ぼそぼそと力無く呟く私に向けられる冬馬くんの雰囲気が、突然変わった気がした。
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