残暑、去り難く

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  「夏生は僕の為に全てを捨てようとしているから、…せめて、波瑠への気持ちだけは捨てさせたくない。それが僕の唯一の望みだよ」 先程とは違い、懇願するような瞳が力強く私を射抜く。 夏生を思う純粋な兄弟愛に、胸が暖かくなった。 「…だから、ちゃんと考えてみて。夏生のこと」 「……うん」 「いい子だね」 頭を撫でられると航一さんを思い出す。 そういえば、冬馬くんと航一さんは似ていると思ったことがあったっけ。 「…航一さんもね、…えーと、昨日の男の人。…冬馬くんは会ってないか…」 「僕も見てたからわかるよ。一人だけカジュアルな服装の彼だね」 「えっ?見てた?」 「座敷童様の中からね」 「へぇ…」 …見えてたんだ。 わらしが成り代わってる時、冬馬くんは眠っているものかと思っていたけど。 え、じゃあ冬馬くんはわらしとずっと同じものを見ているんだろうか。 逆に、わらしは今冬馬くんを通して私を見ているんだろうか。 私の思考がズレていくのに気付いたのか、冬馬くんが「その人がどうしたの」と続きを促してきて我に返る。 「あ、えーと、その人に冬馬くんと同じ事言われたの。…ちゃんと夏生のこと考えたらって」  
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