残暑、去り難く

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  「何でケータイなんか出してんの」 夏生の声を聞いただけで心臓が飛び出してきそうになる。 意味もなく両手で口を塞いだ。 「あれ、本当だ」 「……」 …冬馬くんが超適当にかわしている。 そんな冬馬くんに対してどんな反応をしたのかはわからないけど、夏生が無言のままソファーに座る気配はわかった。 何故座る。 動けないじゃない。 せめて奥の部屋に行ってくれればここから抜け出せるのに。 …意外にも会話が少ない。 兄弟が二人きりになるとこんな感じなんだ。 でも二人が言葉を交わしていない間も存在を示す音は絶えず聞こえてくる。 見えないせいかその音に過敏になり、ソファーの軋む音が聞こえる度に寿命が縮んでいく気がした。 …落ち着け、私。 こういう時こそ五感を使って夏生の動きを探るのだ。 …ん? 何だろう、石鹸の良い匂いがする。 くんくんと鼻を動かしていると、冬馬くんが口火を切った。 「波瑠に告げたの?」 えぇっ……!! 冬馬くん…! いきなり何を…! 驚愕に目玉をひん剥いている私がすぐ後ろにいることを知らない夏生は、少しの間の後「ああ」と言った。 「そう。波瑠は何て?」 「何も」  
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