残暑、去り難く

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  「わかった」 「……!」 ソファーの軋む音が聞こえ、漏れそうになる悲鳴を手で押し止めた。 ヤバい。 こっち来る。 見つかる。 ヤバい。 わらし…! 私を透明人間にして…!! 混乱が過ぎると馬鹿になるらしい。 私は自分の中にあるわらしの力に縋ろうとしていた。 「………何してんだお前」 「…………」 わらしに私を透明にする力まではなかったらしい。 膝を抱えながら真剣に両手を合わせる間抜けな私を、夏生は驚いたように見下ろしていた。 …ああ、気絶してしまいたい。 バカわらし。 高級バッグなんかいらないからこういう時に力を貸してよ。 そして気付く。 夏生の髪が濡れている。 首にタオルが掛かっている。 …石鹸の匂い。 ……完全にお風呂上がりのスタイルじゃないか。 「え、絵を描きに出てたんじゃないの?」 「は?絵?」 「………」 …信じたくないけど、どうやら私は冬馬くんに一芝居打たれたらしい。 微妙な笑顔で固まる私に追い討ちをかけるのは、やはり冬馬くんだ。 「夏生。やっぱりコーヒーは良いよ。僕も先にお風呂入ってくるから」 「えぇっ…!?ちょ、ちょっと待って…!」  
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