残暑、去り難く

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  キュッ、と音がして水道が止まる。 不意に消えた水圧にそっと目を開けると、蛇口を閉める夏生の腕が目に入った。 「もう泡流れてるけど」 「…………あぁ、うん…」 私の手から濡れたマグカップを抜き取ると布巾で軽く拭いてくれる。 いつもと何ら変わらないその横顔をチラ見しながら、なんでこうも平然としていられるんだろうと夏生の神経を疑った。 …やっぱり、からかって喜んでいるだけなんじゃ。 ヤキモキしている私に夏生が小さく笑うから、また心臓が飛び跳ねる。 「どんだけ挙動不審なんだよ」 「べ、別に」 「これだからモテ経験の無い奴は」 「………」 …モテ経験。 てことは、やっぱり、私の自意識過剰や夏生の虚言なんかじゃなく、… 「隠れて人の話聞くとか、趣味悪いなお前」 「……いや、その…あれは…」 「で?聞きたいことって何」 「…………え、えと」 注がれる視線の居心地の悪さに俯きながら手元に掛けられているタオルを弄んだ。 私が口ごもった分だけ空気が重くなっていく気がする。 このままじゃ何も進まない。 というより、帰れない。 一大決心をつけて息を吸い込み、夏生の顔を見上げた。  
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