残暑、去り難く

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  「…あの頃はこの家の伝承とか俺がしなきゃならない事とか聞いて、自暴自棄になって全部から逃げてたんだ。家からも、お前からも」 「…う、うん」 「夢も先も無い人生に波瑠なんていらなかった」 「……」 いらない、なんて酷い言葉なのに、頼りなく震える声は切なさだけを胸に響かせる。 「こんなこと、一生言うつもりなかったけど」 「な、何で言うことにしたの?」 ほんの少しだけ顔を上げて夏生を窺うと、夏生が眉間に皺を寄せた。 「あいつに聞いたんだろ」 「あいつ?」 「出ていく時に言われたんだ。波瑠に俺の気持ちを勝手に暴露しといたって」 「……」 航一さんだ。 「余計な事ばっかしやがって」と不機嫌そうに呟くけど、その顔はどこかすっきりしているようにも見える。 「…まぁ、だからっつーか。どうせバレたならちゃんと気持ちを認めようと思って」 夏生が握った手に力を込めると私の肩が小さく跳ねた。 それを見て夏生が吹き出す。 「お前は本当にわかりやすいな。ざまあみろ」 「な、なによ、ざまあみろって」 「他に聞きたい事あれば聞いとけよ。今ならどんなこっぱずかしい事でも言えそうだ」  
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