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あのあと夏生と別れてから。
いつも通りに接するという約束だったのに、仕事前に夏生達の部屋へ足が向かなかった。
今日はもう会っているから、行かなくても不自然ではないと思ったからだ。
…いや、そう思いたいだけの、ただのヘタレなのだ。
わらしの隣に座る夏生は、何事も無かったかのようにいつも通り涼しい顔で。
私ばかりが意味も無く畳の目を追っていた。
「波瑠…?」
「は、はいっ」
直純さんの声に我に返る。
いけない。ぼんやりしていた。
せっかくの直純さんとのお月見なのに。
「座敷童は何と言っていた」
「わらし?」
「奴は普段は何も考えていないが、珍事には強い興味を示す。昨晩のような事態は楽しくては仕方がなかった筈だ」
「……」
確かにあの時のわらしは、いつになく楽しそうだったように見える。
さっきだって、頭を下げた私に声を漏らして笑っていた。
夏生が気になって仕方なかったけど、よくよく考えたら今日のわらしもご機嫌だったと思う。
だって私に「酒を注げ」なんて言ったの、初めてだ。
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