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「ねぇ、直純さん」
お団子に手を伸ばそうとしていた直純さんが私を見た。
…白い髭に餡子がついている。
可愛いから指摘しないけど。
「何だ」
「お酒って、美味しいんですか?」
「旨くない」
「…わらしもあまり美味しそうに飲まないんです」
「だろうな」
直純さんは全て悟っているような顔で湯飲みに口をつけた。
上品に上下する喉仏を見ながらわらしの事をぼんやりと考える。
「…なんで好きでもないものを毎日飲むんだろう…」
「読書も酒も女遊びも、以前、座敷童が誰かに聞いた暇潰しの方法だそうだ」
「誰かにって…『鳳来』に来る前ですか?」
「ああ」
…誰だ、わらしに女遊びなんて教えた奴は…!
おかげで冬馬くんが…
…でも、わらしが人との関わりを持っていた時代。
わらしの目には、何が映っていたんだろう。
自分の肌で季節の風を感じていたんだろうか。
「…飲んでみるか?」
杯をじっと見ていた私に気付いた直純さんが、私の手に杯を乗せてお酒を注いでくれた。
「え…良いんですか?」
「ここに法は無い。だが、一杯だけだ」
「はいっ」
生まれて初めて口にするお酒には、十六夜の月の明かりが優しく煌めいていた。
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