残暑、去り難く

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  「…ほう……、夏生が…?」 直純さんの低い声に我に返る。 私は何かまずいことを言ったらしい。 だけどお酒のせいで思考がふわふわと覚束ない。 「そーなんですよー。おかしくないですか?あんなこと言った後なのに、まるで何も無かったみたいな顔で接してくるんです」 「成る程。…それで夏生は波瑠に何と?」 「そんなことまで言えません」 「まあ飲め」 「わぁ、いただきまーす」 「……夏生は波瑠に何と?」 「なっちゃん、私を無視してたくせに、私の事ずっと好きだったんだって。私、誰かに告白されたの初めてですーエヘヘ、どうしよう」 お酒は人の口をつるつると滑らせるらしい。 これが「酔い」なんだろうという感覚はあった。 「不本意ながら一緒にお風呂入っちゃった時も人のこと貧乳呼ばわりして馬鹿にしてたのに。それって好きな子にする態度じゃないですよねー?」 「…………波瑠の悩みを無くすために、夏生を消してしまおうか」 「やだもー!直純さんの冗談、面白い」 だけど直純さんと二人だけだから、こんな夜も良いと思う。 私達を見下ろす穏やかな月に、これからの平穏を祈った。  
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