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「起きたら日曜の昼過ぎでさぁ…。寝過ぎ!ってお母さんに超怒られた」
「…どうやって帰ったか覚えてないの?」
「全く!お父さんの話では佐々木さんが連れ帰ってくれたみたいだけど…どうしよう、お姫様抱っことかされちゃったかも」
美緒はあの晩の事を覚えていなかった。
やはり夢だと思ったんだろう。
あの晩は、あまりにも現実からかけ離れていたから。
そして美緒のお父さんは、『鳳来』の事情を知る数少ない外の者の一人だった。
「あーあ、イケメン様との秘密のドライブだったのに。惜しいことしたなぁ」
「…何、秘密って」
「後から波瑠に自慢しようと思ったんだよねー」
美緒はからかうようにわざと厭らしい目で私を見るけど、今は愛しさしか感じない。
生きてて良かった。
またこうして軽口が叩き合える。
「何よ、ニヤニヤして気持ち悪いんだけど」
「…ひどい」
美緒が笑うとポニーテールが元気に揺れた。
けど、そのポニーテールを見ているとふと思い出してしまう。
美緒も銃口を向けられたんだ。
そしてわらしの力さえ無ければ、私共々頭を撃ち抜かれていた。
気付けば呼吸が乱れ始めようとする。
…冷静に、ゆっくり、ゆっくり…。
あの晩から、何度そう言い聞かせて発作をやり過ごしてきただろうか。
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