ゆめ、うつついろ

2/41
前へ
/1229ページ
次へ
  「起きたら日曜の昼過ぎでさぁ…。寝過ぎ!ってお母さんに超怒られた」 「…どうやって帰ったか覚えてないの?」 「全く!お父さんの話では佐々木さんが連れ帰ってくれたみたいだけど…どうしよう、お姫様抱っことかされちゃったかも」 美緒はあの晩の事を覚えていなかった。 やはり夢だと思ったんだろう。 あの晩は、あまりにも現実からかけ離れていたから。 そして美緒のお父さんは、『鳳来』の事情を知る数少ない外の者の一人だった。 「あーあ、イケメン様との秘密のドライブだったのに。惜しいことしたなぁ」 「…何、秘密って」 「後から波瑠に自慢しようと思ったんだよねー」 美緒はからかうようにわざと厭らしい目で私を見るけど、今は愛しさしか感じない。 生きてて良かった。 またこうして軽口が叩き合える。 「何よ、ニヤニヤして気持ち悪いんだけど」 「…ひどい」 美緒が笑うとポニーテールが元気に揺れた。 けど、そのポニーテールを見ているとふと思い出してしまう。 美緒も銃口を向けられたんだ。 そしてわらしの力さえ無ければ、私共々頭を撃ち抜かれていた。 気付けば呼吸が乱れ始めようとする。 …冷静に、ゆっくり、ゆっくり…。 あの晩から、何度そう言い聞かせて発作をやり過ごしてきただろうか。  
/1229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1543人が本棚に入れています
本棚に追加