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帰りに自宅へ寄った。
もう送り迎えは断ったから、久しぶりの徒歩での帰路だった。
自宅へ入るのはあの夜以来。
敷きっぱなしの布団を目にすると、最後にこの家を出たのが航一さんであることを実感し、胸が痛む。
たった、二日前。
なのにここで二人で寝そべりながら夜を明かした事が、遥か昔の出来事のようだ。
布団を畳むと、僅かに航一さんの使っていた香水の匂いが舞った気がした。
「あれ…?」
テーブルの上に置いていたはずの貰った紙袋が、口を開けられた状態で下に落ちている。
…中身が無い。
航一さんが持ち帰ったのだろうか。
辺りを見渡すと仏壇に異変を感じた。
仏壇には小さな茶色のぬいぐるみとガラス瓶…あれは香水だろうか。
うつ伏せに倒されたぬいぐるみの上に、香水の瓶が乗っている。
その置き方に作為的なものを感じた。
「………」
ゴクリ、と生唾を飲み込んでそれを手に取る。
茶色の熊のストラップ。
このぬいぐるみには見覚えがある。
この白色のタイプは、しばらく私の携帯にぶら下がっていたから。
…そしてこれは、初めて二人で出掛けた日に取った、クレーンゲームの景品だ。
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