ゆめ、うつついろ

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  …航一さんの香りじゃない。 じゃあ、誰の使いかけをわざわざ航一さんが持ち込んだんだろう。 何やらメッセージ的なものを感じたけど、さっぱりわからなくてそのまま仏壇に戻す。 大切なものなら、いつか取りに来てくれるかもしれないという淡い期待を込めてキノコのぬいぐるみと並べて置いた。 「わぁ…」 外へ出れば、空の高いところに筋雲が伸びていた。 もう二時間もすれば、白い雲も綺麗な夕焼け空に溶け込むような色合いになるんだろう。 不意に、金木犀の甘い香りが私の鼻先を掠める。 匂いに誘われるように裏庭へ回ると、今年も見事に花を咲かせた金木犀が私を見下ろしていた。 おばあちゃんが大好きだった金木犀。 今年も見せてあげたいな。 その枝を一本握ると、ためらいがちに力を入れる。 枝は、パキリという音を立てて簡単に手折れた。 生命力溢れた濃い緑の葉と、甘い匂いを放つ黄金色の花。 「…もう一本、もらうね」 おばあちゃんの分と、もう一人分。 外の世界に触れられないあの人の顔を思い浮かべ、二本の枝を手に『鳳来』へと帰った。  
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