ゆめ、うつついろ

12/41
前へ
/1229ページ
次へ
  「へぇ、金木犀か。もうそんな時期になったんだね」 「うん。もうトンボも沢山飛んでるよ。そろそろ村の稲刈りも始まりそう」 花瓶に生けられた一本の金木犀をローテーブルに乗せると、冬馬くんが花に顔を寄せる。 長めの前髪が揺れて、目が懐かしげに細められた。 「…こんな匂いだったっけ」 「そうだよ」 「そっか。…懐かしいな。ありがとう、波瑠」 優しく頭を撫でられて、持ってきて良かったと暖かい気持ちになった。 「…提案だけど」 「なに?」 「この花を座敷童様にも見せてあげてくれないかな」 「え?」 綺麗に微笑む冬馬くんを見て、目を瞬く。 「…だって、今わらしも冬馬くんの中から一緒に見てるんでしょ?」 「座敷童様は僕が表に出ている時間は眠ってらっしゃるよ」 冬馬くんが自分の胸元をそっと撫でた。 その色気のある仕草に見惚れそうになるのを堪え、慌てて胸元から目を逸らす。 「で、でも冬馬くんは…」 「うん、僕は座敷童様が使われている間も起きているんだけどね」 「そうなんだ…。大変だね」 自分の身体を貸す側とそれを使う側では、そういった違いがあるのかもしれない。 …ん? そこまで考えて、ふと良くない事が頭を過って身体がピタリと止まる。  
/1229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1543人が本棚に入れています
本棚に追加