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「へぇ、金木犀か。もうそんな時期になったんだね」
「うん。もうトンボも沢山飛んでるよ。そろそろ村の稲刈りも始まりそう」
花瓶に生けられた一本の金木犀をローテーブルに乗せると、冬馬くんが花に顔を寄せる。
長めの前髪が揺れて、目が懐かしげに細められた。
「…こんな匂いだったっけ」
「そうだよ」
「そっか。…懐かしいな。ありがとう、波瑠」
優しく頭を撫でられて、持ってきて良かったと暖かい気持ちになった。
「…提案だけど」
「なに?」
「この花を座敷童様にも見せてあげてくれないかな」
「え?」
綺麗に微笑む冬馬くんを見て、目を瞬く。
「…だって、今わらしも冬馬くんの中から一緒に見てるんでしょ?」
「座敷童様は僕が表に出ている時間は眠ってらっしゃるよ」
冬馬くんが自分の胸元をそっと撫でた。
その色気のある仕草に見惚れそうになるのを堪え、慌てて胸元から目を逸らす。
「で、でも冬馬くんは…」
「うん、僕は座敷童様が使われている間も起きているんだけどね」
「そうなんだ…。大変だね」
自分の身体を貸す側とそれを使う側では、そういった違いがあるのかもしれない。
…ん?
そこまで考えて、ふと良くない事が頭を過って身体がピタリと止まる。
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