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奉納物を持って座敷に入れば、わらしは金木犀の枝を手に取って眺めていた。
仕事前に座敷に運び入れておいたものだ。
珍しい。
わらしが何かに興味を持つなんて。
その意外な姿に、女郎さん達に倣って作っていた無表情が崩れる。
「女。これはお前が?」
「う、うん。…わらし、花が好きなの?」
わらしの前に座って口を開くけど、斜め向かいの夏生の存在がどうしても気になる。
夏生は今、どんな気持ちなんだろう。
私と同じようにバクバクうるさい心臓を抑え込んで、冷静でいる振りをしているんだろうか。
「…また金木犀とは、色気の無いものを」
「え?」
わらしは頬杖をつくと金木犀の枝を畳の上にぞんざいに転がした。
「ちょ、ちょっと!花が落ちる!わらしの為だけにあるんじゃないんだからね!」
本当は冬馬くんの為に持ってきたのに…!
慌てて拾い上げるけど、やはり畳にはいくつか花が零れ落ちてしまっている。
「花は咲かせるが実を付けることはできん」
「え?」
顔を上げれば、わらしは落ちた花をじっと見ていた。
その表情に何か意味ありげなものを感じて、思わずわらしの顔を凝視する。
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