ゆめ、うつついろ

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  「幾ら咲こうが無駄な事。…その辺りの愚行はやはり人間と似ておる」 「…やはり、って?」 私の問い掛けに、わらしが我に返ったように顔を上げた。 その目には何故か驚きの色が浮かんでいて、それを見て私もびっくりする。 …わらしのこんな人間っぽい顔、初めて見た。 金木犀に何か思い入れがあるのかもしれない。 しばらくお互いを探るように見つめ合っていたけど、火がゆっくりと消えるようにわらしから表情が消えていった。 気付けばいつものつまらなさそうな顔で、奉納物をろくに見もしないで夏生に目だけを向ける。 「…下げろ」 「酒あるけど良いのかよ」 「今日はそんな気分ではない」 「……」 奉納物の中にお酒があるのに選ばないなんて初めてだ。 夏生も怪訝そうに眉間に皺を寄せてわらしを見る。 わらしはそんな視線を気にもせず、ゆっくりと目を閉じた。 女郎さんの手で再び一輪挿しに戻された金木犀の花は、なおも飴色の輝きと甘い香りを放つ。 …『鳳来』に来る前。 『外』の世界を歩く、わらしの姿。 それを初めてイメージ出来たような気がして、何故か焦燥感に駆られた。  
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