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俯くと綺麗な手がおもむろに私の顎を掴んで上を向かせた。
見上げた先にあるのは、不敵に笑う菊さんの顔だ。
「残念でした。私達は年季が明けたら自由だもの。貯まりまくったお金で豪遊する予定だし。本当に自由がないのは波瑠ちゃんだけよ」
「……」
「だから、幸せを一つも逃してもらいたくないの。それが女郎全員の願いよ」
「菊さん…」
「廓に身を投じても、幸せになる権利くらいあるんだからね」
「波瑠ちゃんだけじゃないわよ。それは御世話様だって同じなんだから」
「皆さん……」
投げかけられる優しい言葉達に、じわ、と涙が浮かぶ。
私はなんて幸せなんだろう。
沢山の優しい人達に囲まれて、これ以上の幸福は無い。
「言えるわね?」
「言うでしょ?」
「言うのよ」
「…私、私……」
皆さんの気持ちに応えたい。
その想いが胸を支配し、両手に拳を作らせて思いっきり息を吸った。
「言います…!なっちゃんに、ちゃんと気持ちをぶつけます!」
「おおっ…!キタ…ッ!」
「キャーッ!」
私の宣言に場が色めき立つ。
鼻息を荒くする私の頭を、菊さんが満面の笑みで乱暴に撫でてくれた。
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