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「そうだわ、花車様に報告しておかなくちゃ」
「え?」
帰り支度をした私に、逃げ出そうとした萩さんの首根っこを掴んだまま藤さんが話し掛けた。
「座敷童様、床入りされなかったわ」
「とこいり?」
首を傾げて言葉を繰り返す私に反し、他の女郎さん達の顔色が変わる。
「…何があったの?」
「昨晩の太夫は牡丹だったわね」
女郎さん達が藤さんの後ろにいる牡丹さんに視線を投げると、牡丹さんは気の毒なくらい狼狽えた。
「わ…私は何もしてないわよっ!ただ、座敷童様が…」
「だって、こんなこと初めてじゃない」
「ど、どうすんのよ。お遊びがお気に召さなかったってことでしょ?私達にもお咎めがあるんじゃないの?」
「落ち着きなさい。別に牡丹のせいじゃないのよ。あなた達も異変は感じていたでしょう?」
「……じゃあ、やっぱり金木犀…?」
話に付いていけずキョロキョロしていたけど、「金木犀」の単語に目を見張る。
「…あ、あの、金木犀が何か…」
おずおずと言葉を挟むと、女郎さん達全員の目がゆっくりと私を捕らえた。
恐怖を隠さないその目に底知れない不安を感じ、私の足がすくむ。
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