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「…座敷童様ね、昨晩はずっと金木犀を眺めてらしたのよ」
「…え」
「お酒も少なかったし、太夫には指一本触れなかった」
…乱暴に畳に放り出したのに?
でも、金木犀に興味を持ったと思ったのはやはり勘違いではなかったらしい。
金木犀の枝を見ながら、わらしは一晩中何を想っていたのだろう。
「…怖い」
「え?」
女郎さん達の輪から、不安に掠れた声が聞こえた。
「もしかしたら金木犀なんかじゃなくて、外への興味が湧いてしまわれたかもしれないわ…!外へ出るなんて仰られたら、『鳳来』は…」
「萩、落ち着きなさい」
「落ち着けるわけないじゃない…!」
悲鳴に似た声が寮の廊下に響く。
私の背を、冷たい汗が流れた。
「とりあえず波瑠ちゃんは学校へ行きなさい」
「で、でも」
「話は帰ってからよ。御世話様が様子を見てくださると言ってたから、学校が終わったら話を聞いてみて」
「…わかりました」
私はまた何か廓に悪影響を及ぼしてしまったのだろうか。
もしかしたら本当に『鳳来』の崩壊に繋がる事態なのかもしれない。
…怖い。
……けど。
金木犀を見つめるわらしのあの横顔が、どうしても悪いものには感じられない。
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