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「ありがとう…」
きっと冬馬くんは、別れざるを得なかった優子ちゃんを私に重ねて見ている。
冬馬くんですら数年前の事を懐かしく思うんだから、わらしだって当然だ。
夏生が奥の部屋に消えたのを確認してから声を潜めて冬馬くんに聞いた。
「…冬馬くん、わらしは何て言ってた?金木犀のこと…」
「何も。でも遊びに気が向かないくらい、何かを深く想っていたのは感じたよ」
「…それって」
「座敷童様にとって良い思い出かどうかは別として、『外』での記憶だよね」
「……」
やっぱり、と小さく呟く私に冬馬くんが優しい笑顔を向けてくれる。
「…わらし、可哀想だね」
冬馬くんの穏やかな顔を見て、つい不謹慎に思われそうな事を言ってしまった。
怒られるかと思ったけど、冬馬くんは笑みを深めて私を見つめる。
「やっぱり、波瑠ならわかってくれると思っていたよ」
「え?」
「また何か季節の物を差し上げて欲しいんだ」
「いいの?だって、その…」
「座敷童様なら大丈夫。出て行かれる事はないよ」
「…わかった」
良かった。
冬馬くんがそう言ってくれるならわらしに色々見せてあげられる。
花だけじゃなく、果物も持ってこようか。
「それより波瑠。今日は何か良い話がありそうだね」
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