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「………」
表情には出さずに脳内で悲鳴をあげた。
着物を掴んだ手から私の気持ちが伝わったのか、冬馬くんは私を勇気付けるようにポンポンと背中を叩いてから去っていく。
「………じゃあ私もそろそろ…」
「まだ時間あるだろ。波瑠に話あるから座ってて」
ヒィッ、と喉の奥で巻き起こる悲鳴を無理矢理押し込んだらむせて咳が出た。
夏生はそれを見て呆れたように息を吐く。
「もうお前が困るような話はしないから安心しろよ」
「え…?なに、困る話って…」
「冬馬の事だけど」
夏生は強引に話を変えると冬馬くんが座っていた位置に腰を下ろした。
近ければ近いで困るけど、いつもより開いた距離に何となく違和感を覚える。
「わらしに金木犀をやれって言ったのは冬馬?」
「え?う、うん。また何か見せてあげて欲しいって言ってたけど…」
「ふーん…」
夏生は何かを考えるように視線を落としながら頬杖を付いた。
その横顔に釘付けになる。
冬馬くんより涼しげに見える目元。
自分の気持ちに気付いてから見ると、とても格好良く見えてしまうのは何故だろう。
首から顎のラインや大きな掌を見ているだけで、胸の高鳴りと共に緊張がせり上がってくる。
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