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…私が返事をしさえすれば、この人が私の恋人になるんだ。
まさかこんな日が来るなんて。
アルミホイルを全身に巻いてヒーローごっこをしていたあの夏生と。
掌いっぱいにミミズを乗せて得意気に見せてきたあの夏生と。
…まさか、こんな日が。
別人のように大人っぽくなった夏生をもう一度盗み見ると、胸がきゅんと甘く震えた。
「あのさ」
「な、なに?」
見ていたのがバレたか思い、慌てて顔を背ける。
かなり不自然だけど、今この顔を見られるのは流石に恥ずかしい。
「冬馬に変化を感じたことないか?」
「…変化?」
そろりと視線を戻すと、夏生はまだ床を見つめたままだった。
「…変なこと言うけど、あいつ…たまにわらしに見える」
「…だって…実際わらしが入ってるんだから…」
「そうじゃない。わらしが眠ってる時だ。最近の冬馬の行動や言動が…」
夏生はそれっきり黙ってしまった。
…行動や言動がわらしとかぶる時がある、って。
わらしと冬馬くんは正反対のタイプだ。
私は冬馬くんとわらしを重ね見た事は無い。
「私には良くわからないけど…」
「…そうか」
夏生は表情を消しているけど、瞳には私にもわかるほど不安が滲み出ていた。
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