色は匂へど散りぬるを

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  意外な一言に目を瞬いた。 「鬱陶しい」とか言われると思ったのに。 ただその言葉は完全に私に向けられたものかどうかはわからない。 だって、今もススキをじっと見ている。 また何か遠い過去でも思い出しているのだろう。 ススキの種が入ってしまった膳は新しいものに取り替えられたが、わらしは直ぐにお酒に手を出さない。 お酒の存在すらを忘れているようにも見える。 私が『外』の物を持ってくるようになってから、わらしはずっとこんな感じだ。 それに伴って、良い発見もあった。 お酒と夜のお遊びが減ってから、冬馬くんの顔色が日増しに良くなっているのだ。 よく考えれば当たり前だ。 毎晩毎晩大量のお酒を水のように飲んで、太夫と色々して。 それは冬馬くんの負担になっていたんだろう。 やはり身体は冬馬くんのものなんだ。 なら、上手く付き合えば冬馬くんの負担も減らせるはず。 それは女郎さん達の負担も減らせるということで、私はせっせと『外』のものを廓に運んでは座敷に勝手に飾っている。 最初は『外』に触れさせることに難色を示していたおじさん達も、冬馬くんの身体の変化を聞くと口を噤むしかないようだった。  
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