色は匂へど散りぬるを

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  「それはそうと波瑠ちゃん。最近座敷童様のお側に長居しているけど、いくら守られている立場だからって気を抜いちゃ駄目よ」 守られている立場とは、私が処女であるということだろう。 「気を抜くって?」 「あまりにも隙だらけだと、痛い目に遭うってこと」 藤さんは長い髪を掻き上げながらプリッツを口に運び、音を立てて噛み砕いた。 「大丈夫ですよ。最近ぼんやりしてるし、わらしこそ隙だらけじゃないですか。…夏生だって、それがわかってるから私を置いて座敷を出て行くんだし…」 「御世話様がいないなら尚更警戒しなきゃ。座敷童様を甘く見ちゃ駄目よ」 「はーい…」 頭をコツンと叩かれるけど私は夏生の事で頭が一杯で、この時の藤さんの忠告を完全に鵜呑みにしてしまった。 私が拾ってきたドングリを指で弾くわらしは、呼び名の通り子供に見える。 膳に添えてあった楊枝をドングリに刺し、コマを作っていた。 わらしが何やら作業をしているところを初めて見た気がする。 膳の上で音も立てずに回り続けるコマをじっと眺めるわらしを見ていると、もっと何かしてあげたくなった。  
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