色は匂へど散りぬるを

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  相変わらずの悶々とした日々が続いていた。 気付けば甘ったるい秋の風に包まれる十月。 日の入りの早さに心なしか寂しくなる季節だ。 色とりどりの折り紙を広げ、赤と藍を選んで盆に置く。 あくまで奉納物ではなくインテリアとして。 仕上げに稲穂を一本、乗せた時だった。 バタン、ドタン、と廊下の奥の方から荒々しい音がした。 控え室にいた女郎さんと目を合わせる。 …何だろう。 時間はまだ十八時前。 夏生と冬馬くんが何かしているんだろうか。 菊さんに「行け」と目で訴えられて、若干重い腰を上げた。 …さっき、夏生に冷たくされたばかりだからあんまり行きたくないんだけどな。 しくしく痛む胸に手を当て、まだ灯りが入らない廊下を突き進む。 廊下の奥が明るいということは、夏生達の部屋の扉が開いているんだろう。 ぼんやりと見えてきた異変に、思わず「えっ!?」と声を上げた。 扉は開け放たれ、夏生が廊下の壁際に転がっている。 「な…なっちゃん!?ちょっと…大丈夫…!?」 慌てて夏生に駆け寄って肩を揺すっていると、背後にただならぬ冷気を感じた気がして慌てて振り向く。 見上げた先には、扉の向こう側で丁寧に着物の裾を直す冬馬くんがいた。  
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