色は匂へど散りぬるを

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  「……冬馬、くん?」 冬馬くんはゆっくりと顔を上げていつものように綺麗に笑うけど、逆光も相まって酷く冷たいものに感じた。 「いっ…てぇな……このクソ兄貴…」 夏生が顔をしかめ、お腹を押さえながら上半身を起こす。 …とても信じられないけど、この状況から見ると… 夏生は冬馬くんに部屋から蹴り出されたらしい…。 その細い身体のどこにそんな力があるんだろう…。 我が目を疑いながら夏生を助け起こすと、冬馬くんが笑みを深めた。 「時間だから、僕はそろそろ座敷へ上がるよ」 「え、あ、うん…。い、行ってらっしゃい、頑張ってね…」 「波瑠。そこの馬鹿が波瑠に話があるみたいだよ」 「……」 …そこの馬鹿。 冬馬くんって、そういう事も言うんだ…。 驚きを隠せずに目を見開いていると、夏生が一歩進み出る。 「…待てよ、俺も」 「ああ、付き添いは良いよ。座敷童様にもお伝えしておくから。波瑠、夏生を宜しくね」 穏やかな口調なのに何故か恐ろしく、私は人形のようにカクカクと首を振った。 座敷へ向かう藍色の背中を二人で呆然と見送る。 「……あれ、冬馬くんだよね…?…何したらあんなに怒るの?」 「………」  
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