1543人が本棚に入れています
本棚に追加
不自然にならないようにそっと身体を離したのに、夏生はソファーに手を掛けて離れた距離をさらに詰めてきた。
「…な、なに…?」
「…何だと思う?」
「……」
ギシリ、とソファーが軋んでお互いの鼻が触れ合う。
私の目を射抜くように見ながら、尚も近付こうとする夏生に困惑した。
身体が緊張で強張る。
…けど、動いたらそこで負ける気がして、必死で夏生の目を見返した。
「…俺と、こーゆーこと出来るの?」
至極近い距離で発せられた声が私の唇を振るわせるから、ついに触れたのかと思った。
…夏生は私を試している。
「……できるよ」
私の言葉に、夏生の目に怒りが滲む。
だから、私も怒るんだ。
夏生の両肩を掴むと力任せに押し返した。
意外にも夏生の身体は簡単に後ろに傾いた。
少し離れた方が、夏生の表情が良く見える。
驚いたように目を見張るのは、私の行動が想定外だからだろう。
ソファーに完全に背をつけさせると、その上にのし掛かった。
『いっそのこと、押し倒しちゃえば?』
そう助言してくれたのはどの女郎さんだったか。
まさかそれを実現するなんて思わなかった。
自分の今の態勢がどれだけ恥ずかしいのかは、考えないようにした。
最初のコメントを投稿しよう!