色は匂へど散りぬるを

13/34
前へ
/1229ページ
次へ
  「……なにしてんの…?」 「何だと思う?」 さっき言われた言葉をそっくりそのまま返してやる。 夏生は意味を察したように目を丸くした。 「…おい、……」 肩を押し返そうとする手を振り払い夏生に身体を寄せると、私以上に夏生の身体が硬直したのが伝わる。 瞳だって揺れていて、動揺を隠せていない。 「…やめろ」 「やめない」 どうせ出来ないだろうと馬鹿にしてたんでしょ。 私の覚悟を見たいんでしょ。 夏生も私も、目を閉じない。 まるでお互いの視線が縫い止められているようだ。 夏生の肩を掴んだままゆっくりと顔を傾け、夏生の唇に自分のそれを重ねようとした。 「……なんで冬馬の為にそこまでするんだよ…」 …落胆したような夏生の声が、私の唇を掠めた。 冷水を浴びせられたように急激に身体が冷えていく。 …今の私にとってその言葉はあまりにも残酷で。 怒りで最強だったはずの私の心はいとも簡単に打ち砕かれた。 「……?」 異変を感じた夏生が眉を寄せて私を見る。 冬馬くんの為。 私が何をしても、どこまで想っても。 …それが夏生の答えになるのだと思い知らされた。 張り付いた喉が、ヒュッと哀れに鳴った。  
/1229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1543人が本棚に入れています
本棚に追加