1543人が本棚に入れています
本棚に追加
「……なにしてんの…?」
「何だと思う?」
さっき言われた言葉をそっくりそのまま返してやる。
夏生は意味を察したように目を丸くした。
「…おい、……」
肩を押し返そうとする手を振り払い夏生に身体を寄せると、私以上に夏生の身体が硬直したのが伝わる。
瞳だって揺れていて、動揺を隠せていない。
「…やめろ」
「やめない」
どうせ出来ないだろうと馬鹿にしてたんでしょ。
私の覚悟を見たいんでしょ。
夏生も私も、目を閉じない。
まるでお互いの視線が縫い止められているようだ。
夏生の肩を掴んだままゆっくりと顔を傾け、夏生の唇に自分のそれを重ねようとした。
「……なんで冬馬の為にそこまでするんだよ…」
…落胆したような夏生の声が、私の唇を掠めた。
冷水を浴びせられたように急激に身体が冷えていく。
…今の私にとってその言葉はあまりにも残酷で。
怒りで最強だったはずの私の心はいとも簡単に打ち砕かれた。
「……?」
異変を感じた夏生が眉を寄せて私を見る。
冬馬くんの為。
私が何をしても、どこまで想っても。
…それが夏生の答えになるのだと思い知らされた。
張り付いた喉が、ヒュッと哀れに鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!