色は匂へど散りぬるを

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  「…世話が出て行った途端にだらしない顔をするな」 「別にいいでしょ」 夏生がおじさんに呼ばれたのをいい事に、わらしのところへ長居していた。 夏生のせいで最近冬馬くんの顔をゆっくり見られなかったから有り難い。 「…冬馬くん、聞こえる?」 わらしの中の冬馬くんに話し掛ければ、わらしが気怠そうに私を見た。 「…聞こえてるのかな」 「さあな。笑ってはいるが」 「冬馬くん、笑ってるんだ。元気そうで良かった。わらし、最近部屋の掃除をさぼっててごめんねって伝えてよ」 「良い度胸だな、女。座敷童であるこの俺を用人として使うか」 「そんな仰々しい頼みじゃないじゃん。そのくらい良いでしょ」 「……」 わらしが眉間に皺を寄せる。 あ、そうすると夏生に似る。 冬馬くんの顔でそんなことされるの、なんか嫌。 「…早く帰れ。若しくは着替えて酌をしろ」 「まだ大丈夫だよ。夏生も帰ってきてないし。飲むの?良いよ、注いであげる。もう少しわらしと話してたかったんだ」 お酒がなみなみ入った徳利をわらしに向けるけど、わらしは頬杖を付いたまま動かない。 「飲まないの?」 「着替えん限り、酌は受けん」  
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