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「…中身は一緒なんだし、着る服なんて別に何でも良いんじゃない?」
「そもそも」
わらしは頭を起こすと目を細めて私を見る。
「ここでは洋装を禁じている筈だが」
「…そういえば、羽柴さんもそんな事言ってた」
前任の花車である羽柴さんの顔が浮かび、胸にじわりと寂しさが滲んだ。
「知りたいか」
「え?」
「そやつ等が無事でいるか、…俺に聞いてみるか」
わらしの目が妖しく光る。
そやつ等、とわらしは言う。
私の中に思い浮かんだ人達が誰だか、わらしにはわかるんだろう。
きっとわらしには全てが見えている。
…ずっと考えないようにしていた。
わらしと直接取引をしてしまった人達がどうなったのか。
一緒に連れて行かれた羽柴さんはどうなったのか。
…航一さんは?
それを知ったところで、私にはどうしようも出来ない。
だから、前向きに考えるしかない。
私を見つめながら返答を待つわらしに、小さく笑った。
「…きっと、大丈夫だよ」
「……」
わらしの口角が上がる。
その意味はわからなかった。
「そろそろ世話が来るぞ」
「え、もう?じゃあ帰るね。菖蒲さん、後お願いします!」
入り口に控えていた菖蒲太夫がうやうやしく頭を下げる。
その横を慌てて駆け抜けた。
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