色は匂へど散りぬるを

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  「着付けてもらえませんか」 「……」 化粧を施した菊さんの眉がキュッと訝しげに寄る。 「どんな心境だ」とでも言いたげな目に慌てて手を振った。 「悪いことは何も考えてないですよ…!ただ、たまには正装しなきゃいけないかなって。…花車として」 「……」 花車として、なんて言われてしまえば菊さんに止める術は無いんだろう。 頭を下げると私の手から着物を受け取り、黙々と着付けてくれる。 今日からはなるべく着ると決めていたんだ。 過去に一度だけ袖を通した、若草色の着物。 あの時は羽柴さんが着付けてくれた。 『ええ着物や』 そんな言葉を思い出して、改めて着物を見てみる。 女郎さんの煌びやかな着物とは違うけど、これはこれでとても美しい。 …おじさんが奮発してくれたって言ってたっけ。 なら、もっと使ってあげなきゃ着物も可哀想。 「……いたっ!いたたたた!」 着付けが終わったかと思えばぐいぐいと髪の毛を引っ張り上げられた。 結おうとしてくれているらしいが、如何せん長さが足りない。 何より痛い…! ハゲる、ハゲる…! 「か、髪はこのままでいいです…!え?変?でもわらしには着物の事しか言われてないから大丈夫ですよ」 仕上がった装いは私的にバッチリで大満足だったんだけど。  
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